2003年07月01日
「男らしさ」「女らしさ」という性の社会的な側面、つまり、社会から男性としてみられているか、女性としてみられているかということをジェンダーという。アイデンティティは、「自分自身をどう定義するか」「どのような自分であるか」に対する答えと「自分がある」という感覚である。例えば、「日本人である」「教員である」と認めることであり、日本語では「同一性」、「自己認識」などと訳される。したがって、ジェンダー・アイデンティティ(gender identity)は、生物的な性別とは関係なく、社会的に「私は男である」とか「女である」と認めることである。日本語では、「性自認」「性同一性」と訳される。ジェンダー・アイデンティティは生得的要因と生後の養育や教育という社会的要因が関与して発達していく。
従来考えられてきた男女の性格の特徴に、①男の積極的攻撃性と女の消極的防御性、②男の自立性・支配性と女の依存性・融合的同調性、③男の現状打破性と女の現状維持性などがあげられている(間宮 1994)。このような見方がステレオタイプ化されて、男であれば「男らしさ」、女であれば「女らしさ」として社会的に期待されてきた。しかしながら、現在では、その考え方が男女差別につながっていると考えられている。単なる性別による「区別」であり、不当ではないという意見もあるかもしれないが、男らしさに振り分けられた「積極性がある」「決断力がある」「さばさばしている」などがリーダー的資質なのに対して、女らしさに振り分けられた「消極的である」「よく気が付く」「優しい」は補助的な立場の人に求められる資質であることを考えると偶然ではないことが理解できる。現在では、社会状況の変容とともに男女の能力や性格が接近し、多様化しているように感じられる。性格は、生得的条件と環境的条件によって形成されるもので、男女の差よりも、生育条件による個人差の方が大きいと考えるべきである。
能力の特性については「女は言語能力に優れており、男性は視覚・空間認識・数学的能力に優れている」とよくいわれるが本当だろうか。例えば、「男性は数学的能力に優れている」という根拠に、「数学が得意なものをあつめたら男の子が多かった」とか「男の子の方が数理的推理テストで高得点であった」など、それを立証する研究が多い。しかしながら、それが生物的背景に基づくかどうか検証するのはかなり難しい。それは性役割を強化している社会的な影響も考えられるからである。数学的能力の形成には、外部環境が影響する可能性は高い。例えば、高校で進路を考えるときに「女なのに理系なの」と言われるように、無意識的に女性には「理系に行かないように」という抑圧がかかっている場合は多い。そのことは、「世界の大学の物理学科の女性の割合」のデータが物語っている。日本では、女性が物理学の分野に進学するときに、周囲はどのように反応するだろうか。能力の形成にも、社会がどのような性役割を期待するかが影響していると考えられる。
このように性格や能力についての性差についてみていくと、今まで当然と考えていたことにも、今日問題とされている社会的なジェンダーによる差別が深く刻み込まれていることを理解することができる。ジェンダーによる差別の問題は自覚的に修正しないと解決しない。
これまでいろいろなレベルで、性を区分することを考えてきたが、別の座標軸で考えなければならない性に関わる問題がある。「性同一性障害」(GID:Gender Identity Disorder)と「同性愛」である。
「性同一性障害」とは、生物学的には完全な男性または女性として生まれながら、その生物的な性(身体の性)とジェンダー・アイデンティティ(性自認)が逆であり、そのことが苦悩や障害になっているこという。1998年に埼玉医科大で日本最初の性転換手術がおこなわれ、マスコミで話題になっった。「自分自身の性別に対する違和感が非常に強く、性別適合手術(一般的に性転換手術といわれている)をしなければ解決できないと考えている人を「トランス・セクシュアル」(TS:Transsexual)という。また、身体の性とは別の性自認をもつが、トランス・セクシュアルのように手術まで必要としない人を狭義の「トランスジェンダー」(TG:Transgender)、そして、外見や服装を身体とは別の性にしようとする人を「トランスヴェスタイト」(TV:Transvestite)という。他にも男でも女でもないと感じる人や、時によって性自認が変化する人もいる。ジェンダーに何らかの違和感をもつ人を総称して広義に「トランスジェンダー」という。
また、「同性愛」については、セクシュアル・オリエンテーション(Sexual Orientation:性的指向)の問題がある。動物では繁殖期が発情期であり、性行動は生殖目的という一点に絞られるが、ヒトの場合は、性的指向が生殖の相手ではない同性に向かうことがあるということである。男女の性をステレオタイプの枠にはめて、持っている生物的な性とは逆の行動をするように理解している場合があるが、同性愛者は生物学的な性と性自認が同一であり、性的対象として自分と同じ性の相手を求めている。つまり、「性的指向が同性である」ということが共通するだけで、行動様式は異性愛者がそうであるように多様である。同性愛者は、生殖を伴わない性は罪悪ととらえるキリスト教的な考え方から偏見と差別に苦しんできた歴史がある。HIV感染者としてエイズ予防を呼びかけるマジック・ジョンソンの次の話で同性愛を取り巻く状況が理解できる。
「あなたがHIVやエイズについて話すとき,取り上げられそうな問題の一つに同性愛の問題があります。あなたがたの多くは同性愛が異常であるとか,道徳的にみて悪いと信じるように育てられたかもしれません。実際は同性愛は性的に方向づけられているのであって,あなたが選ぶものではないのです。 そして,覚えておいて下さい。好き嫌いにかかわらず,あなたの子供は異性よりも同性にひきつけられると感じる人達がいる世界に住んでいるということを覚えておいて下さい。子供達にはハッキリした情報が必要です。子供達に正確な情報を与えて下さい。そして,その時あなたの価値観について話して下さい。この時期,子供はあなたの信念に対して異議を唱えるかもしれないことを理解しておいて下さい。 親が自分の子供が偶然ゲイやレズであったということで自分の子供を捨てるという時,言葉では言い表せないほど悲痛な思いにさせられる。もしゲイの子供がゲイであることはとにかく悪いことであるという教えを受けたなら,彼らはHIVを受けて当然の処罰の一種だと受けとめるし,彼ら自身や他人を保護しようとすることすらどうでもよくなるかもしれません。もちろん,あなたの価値観は,あなたの決めることです。この本は,同性愛についてあなたと議論するために書いているのではありません。同性愛は罪だと教えられた人達がたくさんいます。あなたがそのように子供時代にしつけられたなら,それと同じ宗教の教えが,我々は皆罪人であると言い,また我々のために他人に欲するごとく同じ愛を与えるようにしなさいと言っているのを思いだしなさい。宗教の指導者や信徒団がレズビアンやゲイについて徐々に支持するようになっていることも知るべきです。わたしがあなたにお願いしたいのは,我々は皆神の創造物であり,我々は皆,愛や同情を受けに値するという考えを,子供達に与えて欲しいということです。」(Johnson 1992)
最近ではテレビや映画などでも同性愛について扱ったものあり、それらの作品の中には、当事者が作成に協力しているものもでてきた。しかしながら、マスコミを通して流される同性愛者のイメージは、オネイ言葉や女装といった旧来の一面的なイメージで「性錯倒者」として描かれている場合が多く、社会の偏見は根深い。1991年に東京都による青年の家利用禁止の決定が同性愛者差別であるとして提訴する事件が起こっている。同性愛者は、自分の性について自分自身は認識しているが、それを公にしない、またはできないことを「クローゼット」といい、自分自身で自分の周囲や社会にそれを明かすことを「カムアウト」という。クローゼットの闇の中にうずくまって、告白できないというイメージが、彼らを取り巻く社会状況なのである。同性愛以外にも、インターセックス、性同一性障害などの性的マイノリティへの差別は実在しており、その理解をすすめる活動が必要である。
投稿者: 秋山繁治 日時: 06:38|パーマリンク |コメント (0)
脳は胎生約20週くらいから分化するといわれている。性差が認められるのは性中枢のある視床下部で、性中枢は女性の排卵周期を調節しているが、特定の時期に男性ホルモンの影響を受けると性周期が破壊される。そのためホルモンの影響を受けない女性はそのまま性周期をもち、男性は性周期を持たなくなる。また、脳の働きは行動に現れるので、行動様式の違いから男性と女性の性差をみることもできる。アカゲザルの小ザルの遊び方のパターンについての研究がある。雄は行動が活発で、社会的攻撃性が高く、喧嘩遊びをするのに対して、雌は幼い子ザルを相手にままごと遊びをしたり、同性のグループを作ったりするという結果が出ている。男性の脳は「活発で攻撃的」なのに対して、女性の脳は「穏やかで融和的」というのであろうか。さらに、妊娠中のザルにアンドロゲンを注射すると、生まれてきた雌の行動パターンが雄化する(出生後に注射しても行動に影響がない)ことが報告されている(Goy 1978)。このことは胎生期に精巣から分泌されるホルモンが脳に影響して雌雄の特徴となる行動を変化させていることを意味している。人間の脳につ いても「男の脳は、ネオテニー的に進化した女の脳を、アンドロゲンによってわずかに退化させることによってつくられる(田中 1998)」と考えられている。この実験をヒトですることはできないが、新生児のときに女の子のほうが男の子より一般的に寝つきがよく育てやすかったり、穏やかであったりする傾向をみると、このような行動の特性は脳の性差を反映した普遍的なパターンであるように思われる。ただし、脳の特性を行動様式の違いで判断するときには、社会的な影響をうけて後天的に変容していくことも考えなければならない。そうしないと、社会的に獲得した性役割を男女の性差と捕らえてしまい、その結果として性別役割分業やジャンダー・バイアスという旧来の刷り込みを強化することになってしまうことも考えられる。
また、「脳の重さ」を比較した研究もある。日本人の脳の重さの平均は、男性で1350g、女性で1200~1250gであり、男性の方が重い。身体の大きさと脳の重さを相対的に考えた場合でも、男性の方が重いので、遺伝的特性といえるかもしれない。その結果から、男性の方が優秀だといいたいのかもしれないが、女性の脳は大脳皮質が男性と比べて約100~150cm 3 小さいが、ニューロンの総数は男女差はなく、ニューロンの密度は女性のほうが優位に高いことがわかっており、IQの優劣に関する調査などから、女性の脳のほうが効率よく働いているといわれている。能力の高さは、脳の重さではなく、脳の中の神経回路がいかに有効にネットワークをつくっているかによると考えられる。脳の重さの特徴は、男性は一般に身長が高くて体重が重いというのと同じ程度の、形態的な特徴でしかない。
脳がどのように性分化し、どのような性差をあるかについては、他にもいろいろな角度から研究されてきているが、脳の性差の研究について「男性が得意といわれる空間能力の性差については膨大な量の研究があるのに比べ、女性が得意とされる言語能力の性差研究はさほどでない」(青野 1997)という意見もある。脳の性差についての研究を男性優位社会を維持するための装置として働かせてはならない。
投稿者: 秋山繁治 日時: 06:34|パーマリンク |コメント (0)
性腺の分化がおわる頃の胎児は男女とも内性器は同じ形をしている。外部生殖原基へ開口するミュラー管とウオルフ管という2本の生殖管をもっている。男性では、精巣の分化にともなってウオルフ管が発達して、副葦丸や輸精管、貯精嚢に分化していくが、ミュラー管は退化して消失してしまう。一方、女性では、ウオルフ管が退化してミュラー管が残り、輸卵管、子宮、膣の一部へと分化していく。両方向へ発生を分岐させているものは胎児の精巣から分泌される2種類のホルモン(アンドロゲン・抗ミュラー管ホルモン)である。 外性器については、男女とも6週の終わりまでは未分化で、差はみられないが、4か月になると、外見から判断できるようになる。男性では、生殖結節という部分が急激に変化して陰茎ができる。女性の場合は、わずかに変化してクリトリスになる。『聖書』では、創世記で「男性のアダムの肋骨から女性のイブをつくった」と記載されているが、遺伝子・性腺・性器の仕組みを科学的に考察すると、「人間の原型は女性のイブ」ということになる。 また、内性器の分化は、ホルモンの作用が重要なので、うまく働かないと性器に異常が起こる。例えば、アンドロゲンの分泌は普通でも、抗ミュラー管ホルモンの分泌が十分でない場合は子宮をもった男性になったり、女性の胎児が母親の飲んだアンドロゲン作用のある薬の影響で外性器の男性化が起こったり、アンドロゲンが正常に分泌されていても、アンドロゲン受容体がない場合は、精巣があっても外性器は女性型になる場合もある。インターセックス(半陰陽)は、解剖学的に男女に判定できない中間型(生物学的に男女が両性の要素をもっている)で、卵巣と精巣を併せ持つ場合と卵巣あるいは精巣をもつ場合があり、染色体の性や外性器の性との混乱がある場合をいう。
性別については、スポーツ競技のセックス・チェックなどの特別な場合を除いて、一般的には出生時の外性器の形態で判断しているが、厳格に二形に区分できるものだろうか。これまで遺伝子レベル・性腺レベル・生器レベルで性決定をみてきたように、ヒトの場合は性分化の過程で男女どちらの性にもなる可能性を持っている。Y染色体上の精巣決定遺伝子が働くかどうか、精巣が分泌するホルモンが存在するか、そのホルモンの濃度や働き方がどうかによって内性器や外性器の分化の方向が大きく異なってくる。このようにみていくと、生物学的な視点でさえ男と女は完全に分離して区分されるものではなく、連続性をもったものと考えられる。
投稿者: 秋山繁治 日時: 06:30|パーマリンク |コメント (0)
男性は精巣をもつように遺伝子が働き、女性は卵巣をもつように遺伝子が働くのではない。遺伝子レベルでの性決定では、ヒトの身体の基本は女性であり、Y染色体に含まれる遺伝子が働かなければ女性になる。つまり、そのままなら女性の身体になっていく運命をY染色体に含まれる遺伝子が男性に変更していくのである。
性腺として、男性では精巣、女性では卵巣をもっており、それぞれ精子、卵という生殖細胞をつくっているが、性腺も胎児期のごく初期には分化していない。卵や精子のもとになる始原生殖細胞は、5週目に生殖巣原基(将来の卵巣や精巣)に向かって移動する。こうしてできた男女共通の未分化な性腺は精巣決定因子が働くと、精巣に分化し、働かないときは自律的に卵巣に分化する。男性の場合は、始原生殖細胞が1回分裂した状態で、青年期まで休眠する。女性の場合は、移動後分裂して20週目に680万個の卵原細胞になるが、卵原細胞の多くは退化し、青年期には40万個に減少している。これらの細胞は、減数分裂の第一分裂で休止しており、排卵の直前に分裂を再開し、分裂をしながら卵管にでていくようになる。
投稿者: 秋山繁治 日時: 06:27|パーマリンク |コメント (0)
染色体は、親から子へその形質をつたえる働きをする遺伝子情報をつくっているDNAが集まったもので、細胞分裂時に現れ、細胞を観察するときによく染色されるので、「染色体」とよばれる。ヒトの場合は1個の細胞に46本の染色体が含まれている。その内訳は、男女に共通した常染色体が44本(22対)と男女で組み合わせの異なる性染色体が2本(1対)である。性染色体は、男性ではX染色体とY染色体があり、女性ではX染色体が2本ある。卵と精子が作られるときに減数分裂によって半減するので、卵は22本の常染色体とX染色体を1本もち、精子はX染色体をもつものとY染色体をもつものができる。したがって、受精が起きるときに卵がX染色体をもつ精子と受精すれば女性に、Y染色体をもつ精子と受精すれば男性になる。染色体レベルでの性の決定は、受精の瞬間に決定している。
では、なぜXXが女性になり、XYが男性になるのだろうか。染色体異常の研究がきっかけになり、Y染色体の働きが解明された。染色体異常とは、卵や精子ができる減数細胞分裂の過程で、性染色体がうまく分離せずに性染色体の欠損や重複などが起こり、そのために、X、XXX,XXY,XXXYなどの性染色体の構成をもった人が生まれる場合をいう。その場合の性別は、X染色体の数に関係なく、Y染色体が1本でもあれば睾丸をもつ男性になるということが判明した。そのことから、Y染色体上に男性を決める遺伝子(精巣決定遺伝子)があることが明らかにされた。ところが、まれに、非常に少数であるがXXの男性やXYの女性があることがわかり、さらに染色体及び遺伝子の研究が進められた。
最近になって性決定遺伝子として、Y染色体上の短腕にSRY部位の遺伝子が分離され、マウスの実験で、XYでもその部位を除けば雌になり、逆にXXでもその部位を挿入すれば雄になることがわかった。このことから、前述のXXの男性はSRY部位が転移して余分に付加されものであり、XYの女性はY染色体にSRY部位が欠損していることが判明した。しかしながら、SRY部位さえあれば、完全な性的機能をもった男性になるかといえばそうはいかない。SRY部位があって、他の遺伝子がないために精巣ができても精子形成がされないなどの報告がされており、生殖機能を持つためにはその他にいろいろな遺伝子の関与が必要であると考えられている。
性分化については、すべての生物が遺伝子の働きであるように思われやすいが、脊椎動物でも遺伝子の働きによらない場合もある。ウミガメやワニなどの爬虫類では、産卵して孵化するまでの環境の温度により性決定していることが明らかにされている。ワニやトカゲは一定の温度より低いと雌になり、高いと雄になる。それに対して、ウミガメは逆で、一定の温度より低いと雄になり、高いと雌になる。また、両生類では、遺伝子によって性決定しているが、ホルモンの影響を受けやすく、性ホルモンを含む環境で幼生を飼育すると完全に性転換する。
投稿者: 秋山繁治 日時: 06:22|パーマリンク |コメント (0)
「性」とは何なのか。生殖細胞に雌性と雄性の分化が見られるときに、それをもつ個体の特徴を「性」という。アメーバのように「無性生殖」をする単細胞生物には性はないが、高等なものほど雌雄の特徴が顕著となる。性が分化すると「有性生殖」が行われ、親とは違った遺伝子の組み合わせをもった子孫(新個体)が生まれる。
「無性生殖」では、遺伝子構成が変化しないのでまったく同一の形質をもった子孫をつくるので、良い環境下では能率のよい方法であるが、その反面集団のすべてが同じ素質をもつために、悪い環境に遭遇した場合は、環境に適応できず、全滅する危険性をもっている。「有性生殖」では、接合(受精)という遺伝子を混ぜ合わせて交換するしくみがあるので、多様な遺伝子の組み合わせをもった、つまり多様な性質の個体がつくられるという利点がある。長い進化の歴史では、幾たびかの大きな環境変化があったが、その変化に対応できた個体が生き残り、現在までに大きな進化を遂げてきたと考えられる。現在の地球上で反映している多くの高等生物たちは有性生殖で繁殖している。
「有性生殖」は環境への適応という点で優れており、その有性生殖を有利に進めるためには、細胞レベルでさらに進化したと考えられる。有性生殖では2つの生殖細胞が接合するが、藻類などの生殖細胞は、雌雄の細胞にほとんど差がない。それが、哺乳類などの高等生物になると、卵と精子という二形に分化している。その理由は何故であろうか。それは、2つの生殖細胞が、出会う機会がなるべく多くなるように、そして、接合した後に大きな生命力(エネルギー)をもてるように進化したと考えられる。つまり、動き回れる身軽さをもった精子と大きくて栄養分をたっぷり蓄えた卵とに分化したのである。したがって、生物的な性には、雌雄の2つの「性」が存在していると考えられる。卵をつくる個体を雌(人間では女)、精子をつくる個体を雄(人間では男)という。
有性生殖は2つの「性」が必要であり、細胞レベルから個体レベルにまで、形態・機能・行動的に二形に分化している。個体は、成長とともに分化(性分化)していくものであり、基本となる細胞レベルの分化だけでなく遺伝子(染色体)、性腺、性器、脳、社会的に獲得したものにいたるまでいろいろなレベルで分化している。
投稿者: 秋山繁治 日時: 06:17|パーマリンク |コメント (0)
脊椎動物の脳は、進化の過程でそれぞれの種が必要とする感覚情報を十分に受け取れるように、関連した脳の部分を発達させてきた。たとえば、魚類、鳥類、哺乳類では小脳が発達し、身体情報を得てバランス感覚を磨き、高度な運動性を身につけている。ヒトの脳の特徴は、他の動物に比べて大脳が発達しているが、脳全体が発達しているのではなく、旧皮質・古皮質(大脳辺縁系)をそのままにして新皮質が付加的に大きく発達した構造をしていることである。このことは何を意味するのであろうか。旧皮質・古皮質は、「生きる」ための重要な働き(情動、本能、欲求)を支配しているが、それをうまく働かせて「上手に生きる」ために、より高度な情報処理ができる新皮質を発達させていると考えられる。
生物的な「性」は、次の世代を残すために、つまりその種を保持するために存在する。動物が繁殖できるようになる時期を発情期といい、その時期に交尾をして子孫をつくる。ヒト以外の哺乳類の雌では、排卵前後の繁殖期しか雄を受け入れず、他の時期には拒絶するものが多い(動物の発情期:図②)。しかしながら、ヒトも同じように思春期になると、生殖可能になり、性欲をもつようになるが、すぐに行動には結びつかない。それは、性欲を調節できる大脳新皮質の働きがあるからである。ヒトの場合は、発情期が延長した形になっており、排卵期以外でも発情する。そのことは、性行動が繁殖の目的だけでなく、男女相互の社会的な結合を強める役割を担っている現状に一致している。人間の性行動は、人間関係を深めるためであったり、快楽のためであったり、文化の中で経済的な利益を生む装置として機能することもある。
また、ヒトの脳は他の哺乳類と比較して、とりわけ脳が未成熟の状態で生まれくる。母体内で神経細胞は増殖するが、神経細胞は生まれた後で軸索や樹状突起を延ばして、神経回路を完成させていくのである。脳にとって、身体は支配するものであると同時に、身体の感覚刺激によって脳を育ててくれるものでもある。つまり、脳は神経細胞(ニューロン)がつながってできた神経回路で身体を支配している。脳の神経回路は、遺伝子の指示で計画的に形づくられるものではなく、成長とともにつくられていくものであり、十分な刺激がないと脳も成長できない。このようにヒトの脳は、成長段階で社会的・文化的な環境の影響を受けながらつくられていく。性行動には、性中枢のある視床下部だけでなく、大脳の働きも大きく影響している。